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「もの」を捨てずに次の人へ

ダンサー柿崎麻莉子さんが選択した
スーツケースひとつのミニマルな暮らし

ここ数年で片づけに関する本がベストセラーになったり、「ミニマリスト」という言葉が定着したりと、シンプルライフにシフトする方が増えています。その一方で、「どうしてもものが捨てられない……」という、片づけが苦手な方も多いのではないでしょうか。
今回は、コンテンポラリーダンサー柿崎麻莉子さんの「ミニマリスト」としての一面にスポットを当て、必要最小限の持ちもので暮らすためのルールや、ものを取捨選択するポイントなど、「持たない暮らし」にまつわるさまざまなお話を伺いました。スーツケースひとつで世界中を巡る柿崎さんのミニマルな生き方には、「どうしてもものが捨てられない」という方や、「部屋をスッキリさせたい」という方へのヒントがありそうです。 (2018年5月16日作成)

旅をしながらの公演生活で
どんどんミニマルになっていた

現在、イスラエルのダンスカンパニーに所属されているそうですね。

大学生の時にオーディションを受けて入団した「Batsheva Dance Company」を経て、現在は「L-E-V Sharon Eyal | Gai Behar」というダンスカンパニーに所属しています。母が新体操の先生というのもあり、小さいころから踊ることが好きでした。小学3年生から高校生までは新体操をやっていたのですが、ボールやリボンを投げて技を決めようとしても、投げたあとに踊ることに集中してしまって受け取れない……みたいなことが多くて。そのころから「もの」に興味がなかったのかもしれません。

「もの」を使わずに身体ひとつで踊るほうが向いていたと。

そうなんです。「自分がやりたいのは新体操ではなくダンスなのでは?」と気づき、大学からコンテンポラリーダンスを始めました。さまざまなダンスカンパニーの公演を観る毎日を送りながらも、「自分の人生をかけたい!」と思うほどの感動にはなかなかめぐり会えなくて。そんなときにバットシェバの日本公演を観て、「私もやりたい!」とオーディションを受けました。

L-E-Vの2017年アメリカツアーの様子

入団を機にイスラエルに住むことになったそうですが、日本から持っていった荷物はすでに少なかったのですか?

そもそも、ものにあまり執着がなかったので、荷物は少ないほうだったと思います。その中でも一番頭を悩ませたのは本ですね。本が好きなのでたくさん持っていきたいけれど、スーツケースは23キロの重量制限がありますから。日本語の本は海外ではなかなか手に入らないし、読み終わったらかさばるしと、ツアーライフで本は常に問題児です。

電子書籍よりも紙の本のほうが好きですか?

「さわる」ということがとても大事なので、紙の本が好きです。本がかさばるという課題を解決するために、「ツアーに持っていくのはすぐに読み終わらない本」というルールを決めました。難しい本だとなかなか進まないので、途中で読む本がなくなって困ることがないんです。今は2〜3冊の本を持ってツアーを回っています。

現在の愛読書はフランス人歴史学者アラン・コルバンの『身体の歴史Ⅰ』と『快楽の歴史』

23キロ以内に収めるために
意識して「もの」を手放す

ひとつのツアーは大体どのくらいの期間なのでしょうか?

平均すると2〜3ヶ月くらいで、長いと5〜6ヶ月出っぱなしのときもあります。ツアー中は暑い国、寒い国を同時に回ることもあるのですが、私の場合は寒暖の調整は服を持っていくのではなく、気合いでなんとかしているところがあります。世界中を回るようになってから、寒さにも暑さにも強くなりました。ツアー先で気分転換に服を買うこともありますが、セーターを新しく買うということは、今持っているセーターを手放すということ。Tシャツも同じです。でも、捨てるのではなく気に入ってくれそうな人にあげることが多いですね。

捨てずに人にあげて、ものを循環させていくんですね。

放っておくとどんどん増えて持ち運べなくなるので、意識して手放すようにしています。たとえば、公演中にいただいたお花やお菓子は持っていけないので、その街で出会った人、たとえば劇場を掃除してくださっているおばさんや、となりのコーヒースタンドの店員さんとか、楽しくお話ができた人に記念にあげるんです。

出会った記念にプレゼントするのは素敵ですね。

「出会いに感謝!」というような気持ちで、自分が持ち運べない分は喜んでくださる方にあげています。

重量制限のあるスーツケースひとつで暮らすからこそ、持っていくものとそうでないものの取捨選択が重要ですね。

そうなんです。今、困っているのが、日本に3ヶ月滞在している間に2枚目のヒートテックと冬用のパジャマを買ってしまったこと。 日本に長くいると、「ひとつ買ったらひとつ手放す」のシステムが崩れ始めて、「必要最小限」ではなく、「これがあるともっと便利」なものまで買ってしまうんです。でも、「久しぶりに定住している」という思いが湧いて感動しました。

柿崎さんのスーツケースの中身。ツアー中はこれだけで数ヶ月の生活を続ける

スーツケースの中に必ず入っているものはありますか?

身体のマッサージに使うグッズや、カモミール系のハーブティーは必ず持っていきます。世界中を回っているとどうしても時差ボケになってしまうんです。就寝前にはカフェインを摂らないようにしているので、寝る前の時間を楽しみたいときにはカフェインレスのハーブティーを飲みます。あとは、本とノートは持っていきますね。日記に近いかたちで毎日必ず言葉を書くようにしています。これは高校生の時からずっと続けていることです。

ブログなどではなくノートに書くんですね。

「手で書くこと」がとても大事なんです。キーボードで文章を打つと自分が考えていることしか出てこないのですが、ノートに手書きすると、自分で考えてもいなかったことまで引き出されるんです。

必要最小限の荷物だからこそ
好きな「もの」が見えてくる

ほかのダンサーの方々の荷物も、柿崎さんと似た感じなのでしょうか?

みんな人それぞれです。たとえば、お米がすごく好きなイスラエル人の女の子は、炊飯器をスーツケースに入れて持ち歩いています。内釜の中に衣類を丸めて収納しているんですよ!ファッションが大好きな男の子はほとんど服。スーツケース生活のはずなのに、靴を4種類くらい持っていて。持ちものを見ると、自分の好きなものをよくわかっていると感じます。私も旅を続ける中で自分のお気に入りがだんだんわかってきました。最近では、各国の「お気に入り買いもの地図」ができていて、下着、靴下、キャミソール、石鹸、バスソルトなど、「この国にいったらこれを使いたい」というものがあります。次にその国にいったときに買えることが嬉しいんです。

取捨選択のルールは、スーツケースひとつで暮らす中で少しずつ変わっていったのでしょうか?

ルールというよりも、「スーツケースの中身をすべて把握できる状態にする」ということなんです。本、セーター、パンツ……と容量が限られているので、1週間に1度も着られていないような服はスタメン落ちです。スーツケースの中身を把握していると、「使われていないものがある」という状態自体が嫌になってしまうんですよね。素敵なワンピースを買って、公演中のパーティ用にと思って入れていたとしても、1週間着られていなかったらもうアウトです。

それは部屋の片づけでも同じことが言えるかもしれませんね。

そうだと思います。最近では、実家や友人の家であまり着られていない服が悲しそうにしているのを見るとこちらまで悲しくなります。でも、ものを活躍できる場所に配置したい、という思いが強くなったのは、スーツケースひとつの生活をするようになってからですね。

ミニマルな生活をする中で、自分の趣向がより細分化して見えて、好きなものが把握できるようになったということでしょうか。

「自分の好きなものがわかる」というだけじゃなく、ものに対するリスペクトみたいな感覚が生まれたのかもしれません。持てる荷物が少ないからこそ、持っていくものはきちんと使いたい。でも、私は捨てることが苦手なので、誰かにあげて、リユースしてもらいたいんです。もらう側も困ることがあるかもしれないですけど、そこには人と人との交流というか、もののやりとり以上のふくらみがあるような気がしています。それは「もの」にとってもそうですし、「人との出会い」という意味でもいいことなんじゃないかなと思うんです。

スーツケースひとつでの生活を続ける中で、ものへのリスペクトの気持ちが生まれたという柿崎さん。重量制限のあるスーツケースに荷物を収めるポイントは、「本当に使うか、使わないか」を見極める片づけの基本にも通じているような気がしました。
そして、柿崎さんが自然と行う、「捨てずに次の人へ」というスタイルはリユースの精神にもつながります。「部屋を片づけたいけれど、捨てられない」という方はぜひ、セカンドストリートのお店にご相談ください。お売りいただいた「大切なもの」を、必要としている次の方におつなぎします。

INTERVIEW GUEST
  • 柿崎 麻莉子(かきざき まりこ)

    1988年生まれ香川県出身。2012年、イスラエルのダンスカンパニー「Batsheva Dance Company」に所属。2015年より現在の「L-E-V Sharon Eyal | Gai Behar」に所属し、世界中を回る。公演活動と並行して世界各地でワークショップも行っている。2011年韓国国際ダンスコンペティション(KIMDC)にて金賞を受賞。2014年Jerusalem Dance week competitonにて振付作品『Golem Couple』が受賞。2013年度香川県文化芸術新人賞を受賞。KAGAWAアンバサダー。Instagram

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